松下幸之助の終戦スピーチ

丁稚奉公から身を起こし、一代で世界的企業をつくり上げた松下幸之助氏。戦後は予期せぬ財閥指定や公職追放などの逆境に見舞われるも、それを見事に乗り越えていきますが、終戦のまさに翌日、驚くべき内容のスピーチを社員に向けて行っていました。

直に幸之助氏の薫陶を受けたお二人は、「経営の神様」から何を学んだのか。ウィズコロナ時代への示唆となる松下幸之助の終戦スピーチをご紹介します。

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〈上甲〉
先ほど中さんもお話しされていた敗戦翌日のスピーチ。これには本当に感動しました。

「ついに大東亜戦争もその目的を達成し得ずして、ここに残念な形において幕を閉じることとなった。ここに至っては、如何(いかん)とも致し方がない。

(略)

ここ当分、次々と予想もできない困難な事態に逢着(ほうちゃく)もしよう。しかしこれを快刀乱麻を断つ如く捌(さば)いて、結末を与えていく基礎は、やはり真の日本精神である。しからば日本精神とはいかなるものか。日本精神とは畢竟(ひっきょう)至誠、誠を全うする心である。

(略)

日本精神を体得すればいかなる難問題に直面しようともこれを打開する方途(ほうと)が生まれ、万事が自ずから成就し、成功するものである。この精神の消長は国家の隆替に密接な関係を有し、日本精神が国民に保持されている時は必ず繁栄したのである」

そして最後にこう締め括っているんです。

「我が社に関する限り、今後絶対に懸念することは要らない。仕事がなくなっても人を会社から離さず、積極的に仕事を見出してむしろ仕事を与えていきたい。いかなる困難に立つとも最善の努力を尽くすつもりである。ゆえに松下電器に関する限り、心配は全くないのであって、安心して業務に当たってもらいたい」

〈中〉
いや、もう痺(しび)れますよね。

〈上甲〉
敗戦の翌日によくこんなことを社員に向けて熱く語りかけた人がおったなと。

※(本記事は『致知』』2020年10月号 特集「人生は常にこれから」より一部を抜粋・編集したものです)