子供の能力をフルに開花させる教育法

堤 孝雄(荘島幼稚園園長)

私どもの荘島幼稚園(福岡県久留米市)が

今後の幼児教育のあり方を模索していた平成5年秋、

同じ浄土宗の福岡の保育園で公開保育があると聞いて

見学させていただく機会がありました。

 

 

教育の参考になれば、という軽い気持ちで臨んでみたのですが、

その時の驚きはいまも忘れることができません。

 

 

園児たちの語彙の多さといい、身体能力の高さといい、

同じ年齢の子供とは思えないような育ちの姿を

目の当たりにしたのです。

 

 

私が感じたのは、まるで戦前の子供たちが

持っていたような凜とした逞しさ、生命力でした。

 

 

「環境や教育次第で子供たちはここまで成長するのか」

 

 

と驚き、その園が所属しておられた

総合幼児教育研究会(略称・総幼研)の

秋田光茂会長先生のお話を聞き、大きな得心を得ました。

 

 

秋田先生から教えていただいた総幼研教育、

そこには他にはない特徴がありました。

 

 

それは、「リズムとテンポと繰り返し」による

日課活動という独特な活動です。

 

 

日課活動の中で、園児たちは大人でも難しい古典の文章を素読し、

小学校高学年で学ぶ漢字を難なく読みこなしていたのです。

 

 

深い感銘を受けた私は、

このような子供たちを育てたいと願いました。

 

 

とりあえず1年間は研修期間に充て、

同じ研究会の幼稚園さんの協力を得て、

自園の先生たちを見学に連れて行きました。

 

 

しかし当初は先生たちの反応は芳しくはありませんでした。

 

 

その頃は自由保育の全盛期。

 

 

「子供の自由意思に任せ、大人は決して指導してはいけない」

という考えが主流でした。

 

 

そのこともあって一部の先生からは反発の声も上がりました。

 

 

ところが、先輩園の先生から何度も話を聞き、

また園児たちの様子をじっくり観察していく中で、

強制どころか園児たちはごく自然に、

しかも嬉々として古典や漢字を吸収し

活動に参加していることが分かりました。

 

 

そのことが分かると先生たちも、この教育に興味を示し始め、

平成7年度に実践を始めた時、一番に率先して推進してくれたのは、

当初誰よりも強く反対していた先生だったことも忘れ難い思い出です。

 

 

漢字教育の提唱者である石井勲先生や、

脳障害児療育の先駆者であるグレン・ドーマン博士のお話を

福岡市で直接拝聴する機会に恵まれたのも、ちょうどその頃でした。

 

 

人間の脳は幼児期、特にゼロ歳に近いほど吸収力が高く

可塑性があることを知り、私の思いは一層深まっていきました。

 

 

総幼研教育の特徴は、子供たちの情緒を安定させる

脳内のセロトニンの分泌を促すリズミカルな日課活動に加えて、

運動能力を高める身体運動をバランスよく取り入れている点にもあります。

 

 

それを実証するかのように、

当園の子供たちも大きく変わっていきました。

 

 

園児たちは登園すると、園庭やお遊戯室などで

リズム運動やランニング、鉄棒や跳び箱、マットなどで

思い切り体を動かします。

 

 

その後、教室に戻り乾布摩擦を終えると、

それまでの賑やかさとは一転、物音一つ立てず、

しっかりと腰骨を立てて黙想し

「月影」という浄土宗宗歌を歌い、「般若心経」を唱えます。

 

 

その後、壁面に掲示された『論語』の章句や詩、

宮沢賢治、高村光太郎といった詩人の作品などを音読して、

先人たちの言葉に親しんでいきます。

 

 

言葉や文章のリズムが、知らず知らずのうちに

園児たちの心の奥底に刻まれていくのです。

『致知』2015年7月号

       連載「致知随想」より

 

 


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