「4,000体以上の仏像を彫った仏師が語る人間学」

私は昔、こういうことを教えられた。

「下積みがなけりゃ、偉くなれない」

苦労して苦労して、どん底から
這い上がってきた者は人材だということです。

比叡山に行くとよくわかります。
谷がぎょうさんありますが、
ええ材料になる木は谷底から
グーンと上に伸びてきた木です。

山のてっぺんでヒョロヒョロと
生えている木はいい材料にはなりません。

見た目には格好よく見えるけど、
大して役には立ちません。
10年、20年、30年と年輪を刻んだ木は違います。

この間、おでん屋に行ったら、おでん屋のだし、
あれ20年、30年かかって
作り上げたものだといっていました。

だから火事になったら、
まずたれを持って逃げるのやそうです。

たれは金では買えない。
20年、30年という時間は金では買えんのです。

人間も同じです。

あの人は味があるなといわれるには、
年輪が要ります。

やはり苦労して叩き上げたもんでないと
本当の人材にはなれんのです。

我々が古仏に相対するとき、
何百年という時間と空間が飛び去ってしまい、
まるで今この仏像が現れたというような
驚きの一瞬を感じることがあります。

この時空を超越して永遠に生きるものこそ、
本当の仏像ではないかと思います。

そこから感動が生まれてくるのです。

感動のない人生は不幸だと思います。

私は貧乏でしたけれども、
金があったから感動的な人生を
送れるというものではないでしょう。

金や財産では人は感動しません。

感動したとしても一時的なものにしかすぎません。

 

「4,000体以上の仏像を彫った仏師が語る人間学」

松永朋琳氏(大仏師)


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