【最後のメール】
俺の彼女はよく風邪をひく。
付き合って3年、
風邪をこじらせて入院する事今までで4回。
退院すると、
「心配かけてごめーん」
なんて、へらへら笑って。
だから、今回だってそうやって
帰ってくると思ってた。
「今日も忙しい?」
仕事の片付かない夜9時を回ったオフィスで、
入院中の彼女からメールが来た。
忙しいなんてもんじゃない。
明後日、
凄く大きな商談があるんだ。
昼間は営業に回って、
夜プレゼンの資料を
作らないととてもじゃないが
間に合わない。
彼女が入院して一週間、
仕事に追われてて見舞にも行けてない。
申し訳ないとは思いながら、
とにかく目の前の仕事を
なんとかやり遂げたかった。
明後日無事にプレゼンが終わったら、
顔でも見に行ってやろうかな。
花買っても、お菓子じゃないの~とか、
子供みたいな事言うんだよな。
病人なんだから、
菓子ばっかり食うなってのに。
仕事しながらも、
彼女に会えるのが楽しみだった。
だから、仕事も頑張れた。
ようやく家に帰れると思った深夜11時、
彼女から電話が来た。
正確には彼女じゃない、
彼女のお母さんだった。
風邪から肺炎を起こして、
こじらせて呼吸障害を起こして亡くなったと。
何を言われているのか、わからなかった。
とにかく、タクシー捕まえて病院に行った。
病院までの時間が、いやに長く感じた。
俺が見た彼女は白い服を着て、
手を握り合わせて、
じっと目を閉じていた。
肺炎で呼吸障害なんて嘘のようだ。
こんなに顔、綺麗なのに。
彼女の眠るベッドサイドに、
俺とお揃いの携帯電話。
普段から携帯見せ合っていたせいか、
無意識に彼女の携帯を開いてた。
送信メールは俺宛てのメールでいっぱいだった。
でも受信メールは、お母さんからのメールがほとんど。
俺、忙しさを理由にメール返していなかったんだ。
ふと、
下書き保存されたメールが
16通もある事に気付いた。
「心配かけたくなかったけど、本当はね、肺癌なんだって」
「会いたいよ~(>_<)」
「お見舞来てよ~(笑)」
全部、俺宛てだった。
保存された1番最近のメールは、
彼女が息を引き取るほんの1時間前のメール。
「ねぇ、どうしても今日会えないかな?」
いつもみたいに、
へらへらしながら帰って来るんだ
って思ってた。
こんなに送れないメールを書いてたなんて・・・
知らなかった。
忙しい合間を縫って、
病院に来ていれば良かった。
もっと、色々してやればよかった。
もう呼んでも返事はない。
俺の泣き声も、届かない。