私も家が貧乏だった。
早くに父が他界して、母と二人暮し。
多分、給食費を払うのも精一杯だったと思う。
1,2年の担任の先生がいつも気にかけてくれていた。
新たに教材を揃えないといけない時は、
前年の残りや先生の物をコソっと分けてくれた。
文房具も揃えきれない私に先生は、
成績が上がる度や、毎年誕生月に
鉛筆、ノート、消しゴムなどを
「皆にはナイショだよ。」
と言ってプレゼントしてくれた。
それは小学校を卒業して、中学生になっても続けてくれた。
私が高校生になるのをとても楽しみにしてくれていたのだが、
私の制服姿を見て貰える事無く、突然この世を去ってしまった。
高校生になって、アルバイトで初めて貰った給料で
ネクタイを買った。
初めて稼いだお金は、先生へのお礼に使いたいと
ずっと思っていた。
母も賛成してくれた。
休日、二人で先生宅を訪れ、奥様に
今までの経緯とお礼を述べ、
持参したネクタイを受け取ってもらうと、
奥様はふと想い出したように席を立たれた。
奥様は小さな包みを持って来られると、
それを私に差し出し、
「きっとこれはアナタへの贈り物だと思うの。
夫は普段、学校の事は一切話さなかったの。
でも、『高校受験する生徒がいる』と、
まるで自分事のように心配してて。
小学校の先生なのに可笑しいわよね。」
と懐かしむように話してくれた。
先生からの最後のプレゼントは、
万年筆と小さなメッセージカードでした。
カードには、「これからも沢山勉強しなさい。」
と書かれていました。
部屋を見回すと、ノート、シャーペン、下敷き、定規、辞書、参考書。
どれも先生から頂いたものばかり。
でも、物では返せない、沢山の御恩を
先生から頂いたと思うのです。
もうすぐ私は先生の言葉を胸に、母校の教壇に立ちます。