喜ばれる人になりなさい (ある親子の会話)

むかしむかし、あるところにお母さんとその息子の少年がいました。あるときお母さんは少年に聞きました。
「大きくなったら何になる?」
息子は答えました。
「一等賞になる」
お母さんはふたたび聞きました。
「なんで一等賞になりたいの?」
息子は胸を張って答えました。
「だって一等賞はすごいから」

お母さんは息子に言いました。
「それじゃあ一等賞になれないね。なってもすぐに追い越されちゃうよ」
ムスッとふてくされる息子にお母さんは続けました。
「よく聞きなさい。ひょっとしたら、あなたは何かで一等賞になるかもしれない。でもそれはあなたのためじゃなくて、困った人を助けるためなのよ」
「そんなこと言われてもわからない。一等賞はすごいんだ」
「今はわからなくても覚えておきなさい。この世にはね、神様がいるの」
「俺、神様なんか会ったことないからわからないよ」
「ううん、あなたのそばには目に見えるたくさんの神様がいる」
「うそだ神様なんていないに決まってるじゃん」
「ううん、いる。それはね、『おかげさま』 っていう神様。あなたが着てる服、履いている靴、これは 全部〈おかげさま〉がつくってくれたものなの。会ったことはなくても、あなたのことを思って一生懸命つくってくれた目に見えない人たちがいるの。その〈おかげさま〉の存在を忘れたらダメだよ。
そしてね、いつかあなたが誰かの〈おかげさま〉になるの。一等賞は困った人を助けるために神様たちがくれるものなのよ。だからあなたは喜ば れる人になりなさい」
「喜ばれる人?」
「そう。あなたが人から喜ばれる人になること。それが私の夢」
出典:喜ばれる人になりなさい 永松茂久