世間には高い能力を備えながら、
心が伴わないために道を誤る人が少なくありません。
私が身を置く経営の世界にあっても、
自分さえ儲かればいいという自己中心の考えから、
不祥事を引き起こし、没落を遂げていく人がいます。
いずれも経営の才に富んだ人たちの行為で、
なぜと首をひねりたくもなりますが、
古来「才子、才に倒れる」といわれるとおり、
才覚にあふれた人はついそれを過信して、
あらぬ方向へと進みがちなものです。
そういう人は、たとえその才を活かし一度は成功しても、
才覚だけに頼ることで失敗への道を歩むことになります。
才覚が人並みはずれたものであればあるほど、
それを正しい方向に導く羅針盤が必要となります。
その指針となるものが、理念や思想であり、
また哲学なのです。
そういった哲学が不足し、人格が未熟であれば、
いくら才に恵まれていても、
せっかくの高い能力を正しい方向に活かしていくことができず、
道を誤ってしまいます。
これは企業リーダーに限ったことでなく、
私たちの人生にも共通していえることです。
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この人格というものは
「性格+哲学」
という式で表せると、私は考えています。
人間が生まれながらにもっている性格と、
その後の人生を歩む過程で学び身につけていく哲学の両方から、
人格というものは成り立っている。
つまり、性格という先天性のものに
哲学という後天性のものをつけ加えていくことにより、
私たちの人格は陶冶されていくわけです。
言い換えれば、哲学という根っこを
しっかりと張らなければ、
人格という木の幹を太く、
まっすぐに成長させることはできないのです。
京セラ名誉会長・稲盛和夫