幕末の儒者、佐藤一斎(いっさい)の言葉。
「一燈を提(さ)げて暗夜を行く。
暗夜を憂うることなかれ。
ただ一燈を頼め」
人生行路は暗夜を行くようなものだが、
一燈があれば転んだり道を踏み外したりすることはない、
と一斎は教えている。
では、一燈とは何か。
古今東西の先哲が残した、
生きていく上での範となる人生心得こそ、
その一燈になるのではないだろうか。
清代末、13年に及ぶ太平天国の乱を平定した
哲人政治家、曾国藩(そうこくはん)が
自分の息子に、お前の態度は浮ついている、
その欠点を正すには早起き・有恒(ゆうこう)・重厚に留意せよ、
と教えている。
この三つの中でも特筆すべきは有恒だろう。
恒(つね)有り。
ムラッ気がなく一貫している、ということである。
恒のない者が大成することはない。
また、曾国藩は息子にこうも教えている。
「父はお前が大官になることは願わない。
読書明理の君子になってほしい。
勤倹自ら持し、労苦に習い、
順境にも逆境にも変わりなく処していくのが君子である」
現代にも通じる心得であろう。
経団連会長を務め、国鉄民営化に
大きな役割を果たした土光敏夫氏は、
ビジネスマンにこういう言葉を残している。
「会社で8時間懸命に働くのは当たり前。
当たり前でないのは会社が終わってからの時間をどうするかだ」
パブソンという人が過去100年に
世界の実業界で活躍した人たちを調べて、
同様のことを言っている。
「彼らが成功した要因は、
彼らが例外なしに会社が終わってからの時間が
大切だと思っていた点に求められる」
1人の時間をどう使うか。
それが運命を決めるということである。
「1人の時間をどう使うか。それが運命を決める」
藤尾秀昭(月刊『致知』編集長)