【みがき砂】

【みがき砂】

男は何で自分を磨くか。

基本は「人間は死ぬ…」
という、この簡明な事実をできるだけ若いころから意識する
ことにある。

もう、そのことに尽きるといってもいい。
何かにつけてそのことを、ふっと思うだけで違ってくるんだよ。

自分の人生が有限のものであり、残りはどれだけあるか、
こればかりは神様でなきゃわからない。

そう思えばどんなことに対してもおのずから目の色が変わって
くる。

そうなってくると、自分のまわりのすべてのものが、
自分をみがくための「みがき砂」だということがわかる。

逆に言えば、人間は死ぬんだということを忘れている限り、
その人の一生はいたずらに空転することになる。

仕事、金、時間、職場や家庭あるいは男と女のさまざまな人間
関係、それから衣食住のすべてについていえることは、
「男のみがき砂として役に立たないものはない…」
 ということです。

その人に、それらの一つ一つをみがき砂として生かそうという
気持さえあればね。

男の作法 :池波正太郎

新潮文庫