「乞食と天使」

「乞食と天使」

いつもよく働く靴屋のもとへ、あるとき、天使が現われました。

乞食の姿になって・・・。 

靴屋は乞食の姿を見ると、うんざりしたように言いました。

「おまえが何をしにきたかわかるさ。しかしね、私は朝から晩まで働いているのに、家族を養っていく金にも困っている身分だ。ワシは何も持ってないよ。ワシの持っているものは二束三文のガラクタばかりだ」

そして、嘆くように、こうつぶやくのでした。

「みんなそうだ、こんなワシに何かをくれ、くれと言う。そして、いままで、ワシに何かをくれた人など、いやしない・・」

乞食は、その言葉を聞くと答えました。

「じゃあ、わたしがあなたに何かをあげましょう。お金にこまっているのならお金をあげましょうか。いくらほしいのですか。言ってください」

靴屋は、面白いジョークだと思い、笑って答えました。

「ああ、そうだね。じゃ、100万円くれるかい」

「そうですか、では、100万円差し上げましょう。ただし、条件が1つあります。100万円の代わりにあなたの足をわたしにください」

「何!? 冗談じゃない! この足がなければ、立つことも歩くこともできやしないんだ。やなこった、たった100万円で足を売れるもんか」

「わかりました。では、1000万円あげます。ただし、条件が1つあります。1000万円の代わりに、あなたの腕をわたしにください」

「1000万円・・・!? この右腕がなければ、仕事もできなくなるし、可愛い子どもたちの頭もなでてやれなくなる。つまらんことを言うな。1000万円で、この腕売れるか!」

「そうですか、じゃあ、1億円あげましょう。その代わり、あなたの目をください」

「1億円・・・!? この目がなければ、この世界の素晴らしい景色も、女房や子どもたちの顔も見ることができなくなる。駄目だ、駄目だ、1億円でこの目が売れるか!」

すると、乞食は言いました。

「そうですか。あなたはさっき、何も持っていないと言ってましたけれど、本当は、お金には代えられない価値あるものをいくつも持っているんですね。しかも、それらは全部もらったものでしょう・・・」

靴屋は何も答えることができず、しばらく目を閉じ、考えこみました。

そして、深くうなずくと、心にあたたかな風が吹いたように感じました。

乞食の姿は、どこにもありませんでした。